パリ3区ができるまで。
はじまり‥黙々とケーキをつくるのが向いていた

最初に触れたのは、シュークリーム。
アルバイト先の専門店で、ただ夢中で生地を焼いたり、クリームを詰めたり‥。
やがて、ホテルの厨房にも立ちましたが、レストランのせわしない空気は自分には少し違った。
静かに、坦々と、ケーキと向き合う時間が、性に合っていたのだと思います。
ロマランで出会った、フランス菓子と憧れ
岡山の名店「ロマラン」に入り、先輩たちの背中に惹かれました。
彼らの所作、ケーキの香り、仕上げの美しさ。「フランス菓子って、こんなに美味しいんだ」と感じたのもこの頃。
その先輩の一人が、東京で修行をしていたこともあり、自然と目が東京へ向きました。
週末には有名店を巡ってはケーキを買い、包み紙ごと大切に持ち帰ったこともあります。岡山にはない空気が、そこにはありました。

イル・プルーとの出会い——厳しさと静かな美味しさ
「イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」に入門したのは、少しの偶然と、少しの直感。
昭和の職人気質が残る場所で、シェフは怖く、妥協を許さない人でした。
けれど、あのケーキには、他にない深みがあった。派手ではない。だけど一口ごとに、素材の声が聞こえてくるような静けさがある。
それが、自分の目指す方向だと感じました。

フランス修行から地元・岡山へ

1年の修行を経てフランスから帰国。
国際ホテルでペストリーシェフを務め、さらに経験を積みました。
その後、岡山市東区平島にて、最初のお店 「lesgenschic」 をオープン。
当時はまだ小さな店構えでしたが、フランスで培った味わいと想いをお客様に届けたい一心で、ひとつひとつ丁寧にお菓子を作り続けました。
しかし2016年、大雨によって店舗が浸水し、営業を続けることができなくなります。困難な状況の中でも「本場フランス菓子の味を岡山で届けたい」という想いは消えることなく、新しい場所での再出発を決意しました。
そして岡山市南区下中野に拠点を移し、店名を 「パリ3区」 に改めオープン。
この名前は、シェフがフランス修行時代を過ごした住所に由来し、原点への想いと誇りを込めています。
「3区」の部屋で焼いたタルト、いつかの誓い
パリで修行していた頃、3区の小さな部屋に住んでいました。
休日にはマルシェを歩き、果物を買ってタルトを焼いたり…あの部屋で感じた空気や時間の流れが、今でも自分の基礎になっています。
「パリ3区」という店名には、その記憶、香りを、今も忘れずに持ち続けたいという想いを込めました。
